大企業だけじゃない!エーザイに学ぶ稼いだお金の使い方

大阪市都島区のBiz Bloom(ビズブルーム)経営会計事務所の税理士室田です。
先日、初のアルツハイマー病の治療薬として米国FDAの承認を受けたことで株価が連日ストップ高になったりと話題になったエーザイの事例を見ながら、決算で利益が出た時にどのように考えるかについてご説明させていただきたいと思います。
「どうせ大企業の話だろ」と思われる方もいらっしゃるかも知れませんが、全ての会社において参考になる考え方が含まれていますので、ご紹介いたします。

なお、本稿では正確性よりも分かりやすさを重視しており、特に「利益」と「キャッシュフロー」については同じような意味合いで使っている個所が多々あります。

エーザイの株主還元

今回お話するエーザイは、話題になったアルツハイマー病薬を開発したことから研究開発力があるのはもちろんですが、コーポレートガバナンス(企業統治)についても非常に進んだ企業として定評があります。
(話は完全にそれてしまいますが、私は以前同業界の会社の財務部で勤務しており、更にエーザイとは研究開発で提携していたり非常に親しい会社であったため、政策保有株として同社の株を購入したり同社の株主総会に参加したりしていました。株主総会というと演台の上で堅苦しい感じで話すというイメージですが、同社の場合、まるでスティーブジョブズのプレゼンのように社長が観客に語り掛けるように話をしていたのが印象的でした。)
その中の一つとして、自社が稼いだ利益をどのように株主に配分するかの方針を定めた「株主還元」があります。

そして、少し前の話にはなりますが、2010年5月の同年の決算発表において、このように説明しています。

キャッシュ・インカムは、企業のキャッシュ創出力を表わしております。その使途
は、株主様への配当支払い、成長投資・事業開発および借入金返済等の財務体制の強化
などであり、それぞれに対し中期的に1/3ずつバランスよく配分することが重要である
と考えております。

エーザイ決算短信より
エーザイ決算説明会資料より

株主還元のポイント

「キャッシュ・インカム」については、株式市場のアナリスト等の専門家相手の概念なので、どう計算するのかという話は少しテクニカルなお話になりますので、置いておいて、本質的な部分をすごくざっくりと説明すると、
『その年に稼いだ利益は、将来の成長に向けた資金を1/3、株主への配当を1/3、借入金の返済を1/3ずつ配分する』という事です。
ここで疑問の思われた方もいらっしゃるかも知れません、そう、「利益は売上マイナス経費で計算されるはず。
では、借入金の返済は経費に含まれているのでは?」と
税理士業界にいるとよくご質問を受けるのですが、「借入金の返済は経費にならないの?」と
確かに、従業員さんのお給料と借入の返済、会社からお金が出ていくのは同じなのに方や経費になって方や経費にならないの?と。

借入金の返済は経費にならないのはなぜ?

皆様の中に税理士に「借入金の返済が経費にならないの?」と聞いたことのある方も数多くいらっしゃるかと思います。
答えとしては「借入金の返済は経費にならない」ということなのですが、税理士からどのような説明がありましたでしょうか?
会計・税務の理屈上正しい答えは、「借入は損益取引ではなく、云々」という話なのですが、実務では理論的な正しさよりも分かりやすさを重視した方がよいと思いますので、「借りた時も売上にならないので、返した時も経費にならない」とざっくり理解しておいた方がよいと思います。
ということで、借入金を返しても経費になりません。

将来のためのお金を確保しましょう

話が少しそれてしまいましたが、エーザイの考え方を皆さんの会社にフィットするようにアレンジすると、『その年に稼いだ利益は、借入金の返済を80%未満に抑えて、残りは将来の成長に向けた資金に配分する』というのはいかがでししょうか?
エーザイのような上場企業と異なり、非上場企業で配当をすることは非常に稀ですので、配当は考えないで問題ないと思います。
ポイントは、将来、会社が成長するために投資をするお金を残すということです。
お金は金融機関から借りるということも考えられますが、成長のための投資ということでそれなりにリスクも大きいこともあると思いますので、返済が必要な借入よりも自己資金の方が経営は安定することになります。

返済しすぎに要注意!

さて、借入金の返済に80%を充てるというお話をしましたが、世間一般的にどの程度利益を返済に回しているのでしょうか?
正確な数値は公表されていないので、あくまでも推測ですが、以前ご説明したことのある「債務償還年数」の中小企業における平均は、2019年で6.2年、2020年で7.7年(日本総合研究所「法人企業統計からみたコロナ禍の中小企業財務への影響」より)という事ですので、仮に企業が10百万円の利益を出していれば、2020年の数値で考えると借入金の残高は77百万円という事になります。
そして、金融機関の貸付期間は5年と7年が多いので、長い7年での貸付としても年間11百万円の返済があり、多くの会社では、利益の100%以上の返済をしていることになります。つまり、借入の返済のために借入を行っているという状況になります。
もちろん、返済額が多いほど急ピッチで借入の残高が減りますが、一方で将来への投資ができず成長の芽が摘まれてしまう状態になってしまいます・・・。

返済しすぎを防ぐための方法

では、どうやって返済のしすぎを防げばよいのでしょうか?

正確な事業計画を

まず、借入を行う際に金融機関に将来の事業計画を提出していると思いますが、楽観的な予測に基づき過大な売上や利益を予測してないでしょうか?
過大な予測に基づき返済計画を作ると、実際の結果が予測よりも少なかった場合、返済負担が大きくなってしまいます。

期間を「伸ばす」、短期借入の活用

もう一つは、借入の方法を見直すという方法です。
例えば、設備投資と異なり運転資金での借入であれば、通常の長期借入の形態ではなく、期限一括返済の「短期借入」で調達し、期限がくるごとに延長を繰り返したり、長期の資金であれば金融機関と交渉し可能な限り返済期間を「伸ばす」(期限一括返済での借入も検討)という方法で返済を少なくすることが考えられます。
ただし、短期の借入については、延長してもらえなければ一括返済が必要になりますので、金融機関とのしっかりしたコミュニケーションは欠かせません。

今回ご紹介しました件の詳細をご案内希望の方は、当所までお問合せいただければ幸いです。

関連記事

カテゴリー